人気ブログランキング | 話題のタグを見る

Never Being Boring

neverbb.exblog.jp
ブログトップ
2009年 08月 09日

『香港追憶』長野重一

『香港追憶』長野重一_d0116571_10394028.jpg


 長野重一『香港追憶』蒼穹舎刊、2009年、モノクロ。

 去年の暮れの『遠い視線 玄冬』とほぼ同時に刊行されて、ファンを狂喜させた写真集で、1958年に香港を訪れたときのスナップで構成されている。長野さんのキャリアでいうと、岩波写真文庫の仕事が一段落したくらいのタイミングだから、日本は撮り尽くしたので次は海外でというつもりだったのか、それとも戦後10数年経って薄れてきた猥雑な空気を求めたのか。たぶん、後者かな。

 おなじみの看板林立の街角から、路地で麻雀する人、水上生活者、九龍城の阿片窟まで、あらゆるものにレンズを向けているんだけど、視線がクール過ぎるというか、ジャーナリスティック過ぎるというか、初めての海外にも関わらず浮き足立ったところがまったくない。日本人というより、マグナムの写真家が撮ったアジアという感じ。ドキュメンタリの人は肝が据わっている。それでもまだこんな世界があったんだという驚きが伝わってくる。それが50年以上たった今、強烈な熱気を伝えてくる。

 長野さんは、この後世界を放浪してドキュメンタリ写真を撮り続ける、・・・という展開にはいかず、国内で映画のカメラを回し始める。映画カメラマンのキャリアとしては、市川崑監督の「東京オリンピック」が引き合いに出されることが多いけど、自分にとってなじみがあるのは「ふたり」「北京的西瓜」などの大林宣彦監督の作品だ。長野さんが写真の世界に戻ってくるのは、1980年代後半に入ってからである。

by yas_tak | 2009-08-09 10:41 | 写真集


<< 『撮影中』      『メニュー』 >>